冷酷皇帝と偽りの花嫁~政略からはじまる恋の行方~

 そしてやはりもう一人、笑顔いっぱいの人がいる。

 イーノックだ。

 こんな甘いアシュレを見るのは、イーノックとて初めてのことだ。

 見ていて歯が疼いてくる。

 それでもまだ肝心な一線は越えていないようだ、、、と
 イーノックは睨んでいる。

 イーノックが



   「皇帝陛下におかれましては、お世継ぎ問題を、、、。」


 
 と言いかけると、アシュレはぷいっとそっぽを向いてしまう。

 その横顔が心なしか赤い。


  (おいおい、お前は十代の小僧か!)


 と、内心アシュレに突っ込んでいるイーノックである。




 慌ただしくも、穏やかな日常が流れていたある日、アシュレがリューリに
 ある提案をした。



   「北の山荘でございますか?」

   「そう、北の領にある皇室が所有している山荘だ。そこに行かないか

   「はい。」

   「ちょうど山荘のあるミッツの街で冬祭りがひらかれる。
    それにミッツには農業用の溜め池があるんだが、
    それが凍ってスケート場になるんだ。
    おもしろいぞ。」

   「まあ!」



 リューリは目を輝かせた。

 供の者をふたり連れただけの、お忍びの旅行だ。
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