冷酷皇帝と偽りの花嫁~政略からはじまる恋の行方~
コンコンというノックの音と共に、イーノックがあらわれ、リューリは、
王宮の中にある、礼拝所にむかった。
いつかのように、扉をあけたむこうには、神の像の前に
本当に天から降臨した神のような凛々しさで、
皇帝アシュレが立っているのが見えた。
アシュレのもとまで、リューリは歩く。
一足ごとに、アシュレの姿がしっかりと見えてくる。
青みがかった黒髪の下の切れ長な目は細められ、口元にも笑みがうかんでいるが
それが、偽りの姿だということをリューリはもう知っている。
夜会の日から一ヶ月。
昼食を一緒にとる以外は、ほとんど捨て置かれたようなものだった。
昼食のときも、人の目があるときは笑みをうかべているアシュレの口元も、
誰もいなくなれば、ぎゅっと引き下げられむっつりと黙ってしまう。
笑っている顔がにこやかであればあるほど、その落差ははげしく
リューリも一緒に押し黙った。
それが、二人の関係であり、どちらもが生涯をともにする相手なのだ。