冷酷皇帝と偽りの花嫁~政略からはじまる恋の行方~

 しばらくは、茶器がかちゃかちゃと触れる音がしていたが、
 女官が出て行ってしまえば、部屋の中には、また沈黙のカーテン
 がおりてくる。

 茶器を見つめていた、アシュレが唐突に口をひらいた。



   「お茶を用意させたが、飲むか?」

   「はい、いただきます。」

   「そんなところに突っ立っていないで、こちらに来い。」



 かたわらのソファをしめされ、リューリはおずおずと腰をおろした。

 紅茶のカップをもったアシュレは、何を思ったのか、リューリの
 隣にくると、そこに腰をおろす。

 
 肩がふれるかふれないかの距離だ。


 リューリの心臓が”とくん”と音をたてた。



   「あの、怒ってはいらっしゃないのですか?」

   「何を怒る?」



 リューリは紅茶のカップを握りしめた。



   「はしごに登っていたことです。」

   「呆れているが、怒ってはいないな。」



 それきり二人の間に会話はなく、ただ二人でお茶を飲む
 静かな時間だけが、過ぎていく。
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