冷酷皇帝と偽りの花嫁~政略からはじまる恋の行方~
オニギスでパズラーン運河の領地を治める、アッカースン侯爵は
口ひげがりっぱな男だったが、その目つきが厭らしかった。
相手を値踏みするようにじろじろと眺め回す。
初対面の時だけならまだしも、三日滞在しているうちに、
何度その不躾な視線を向けられたことか。
リューリは表にはださず、そっと胸の内でため息をついた。
それでも、アッカースン侯爵の注意を自分に引きつけておかねば
ならない。
オニギス公国の通行証を持っているとはいえ、突然、訪ねてきた
リューリ達を、アッカースン候は最初、疎ましがっていた。
ところが、リューリ達が着いた後、アシュレから送られてきた
クルセルト国の大量の貴腐ワイン(クルセルト国の南方の高原地帯
のみで作られる非常にめずらしいワイン)を見て
アッカースンの態度はころりとかわった。
今日も、リューリのそばで、ワインのおいしさを讃え、
このおいしさを、是非、オニギスにも広く知らせしめたいと
熱弁をふるっている。
クルセルト国の貴腐ワインの貯蔵場は、皇帝直轄だ。
だから、皇妃であるリューリの歓心をひき、自分が取引相手に
なりたいと、そう思っている。
その思惑にリューリは乗るように見せかけては、身を引き、
また、歓心をもったようにしては、話しを逸らすということを
三日も続けている。