冷酷皇帝と偽りの花嫁~政略からはじまる恋の行方~

 それから二日滞在し、イーノックの内偵がすむと、明日は
 クルセルトに向けて発つということになった。

 

 だが、最後の内偵にでかけたイーノックが、まだ戻ってこない。

 不安な気持ちで、部屋でイーノックの帰りを待っていたリューリ
 のもとへ、帰ってきたイーノックは



   「油断しました。」



 そう言うなり、顔をしかめた。



   「どうしたのです?いったい何があったの。」



 ふらつくイーノックを支えたとき、リューリは手が何かぬるつく
 ものに触ったように感じた。

 手をひろげてみると、血がべっとりとついている。



   「イーノック!」



 イーノックの脇腹には、刃物で切られた傷があった。



 何かあったときのためにと、旅行カバンの底にしのばせておいた
 救急用具をとりだし、傷の手当をする。

 北の離宮では、お医者様までが遠かったから、リューリは怪我の
 手当ができた。
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