冷酷皇帝と偽りの花嫁~政略からはじまる恋の行方~

 それがもし、九ヶ月近くたつ今でも、皇妃が無垢なままで、
 しかもキスひとつ交わされていないと知れたら。

 だれもかれもがひそひそと囁きあい、自分を嘲笑する情景がリューリの
 頭にうかんだ。

 良い妃であろうとした。

 だから、お妃教育もがんばっているし、オニギスでの外交もなんとか
 やり遂げてきた。



 でも、私は、、、皇帝に愛されない私は、、妃ではない。



   「どうされたのです、そのような恐い顔をなされて。」



 難しい顔で書籍室にかけこんだリューリは、間近で声をかけられて
 はっとした。



   「イーノック! 出歩いて大丈夫なのですか?」

   「はい、少しぐらいなら大丈夫ですよ。」



 そこには、いつも変わらず穏やかな笑みをうかべるイーノックがいた。



   「それより、リューリ様こそ、傷はよくなりましたか?」

   「ええ、私のは、たいしたことないですから。」



 そう言ったものの、リューリはまだ、包帯を巻いている。
 出血は止まったが、まだ傷は完全に塞がっていないからだ。

 その腕を見て、イーノックは目をふせると言った。
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