冷酷皇帝と偽りの花嫁~政略からはじまる恋の行方~

   「アシュレ!」



 バンと扉が開かれると共に、大声で名を呼び、イーノックが入ってきた。
 しかも、呼び捨てで。

 いつもは慇懃無礼なイーノックが、” アシュレ ”と呼び捨てにするときは
 なにかで腹をたてて、アシュレに説教をするときだ。

 それがわかっているから、アシュレは呼び捨ても咎めず、普通に返事をした。



   「なんだ。」
   
   「なんだ、じゃない。リューリ様の事だ。
    リューリ様を離縁するつもりなのか!」



 バンと執務机を叩いたイーノックが顔をしかめている。

 恐らく、傷口に響いたのだろう。



   「は?」
  
   「皇帝陛下が望んでいるのは、自分ではないと仰られた。
    そう陛下に言われたと。」

   「なんのことだ、そんなこと言った憶えもないし、離縁しようとも
    思っていない。」



 アシュレの返事に、イーノックは眉間のしわを深くしていく。



   「では、なぜだ?私は妻ではないと仰られて、、、。」

   「................。」

   「おまえ、まさか、、、。」

   「まさか、なんだ?」

   「..................。」
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