ゆーとゆーま
 学生の間で、五月一日にはスズランの花を好きな相手に贈ると恋が叶うって噂が流れたらしい。正確には贈られた相手に幸運が訪れる、だが真偽を確かめる前につい買ってしまうのが人の性質で、今日は開店直後からどっと学生さんが買って行った。

 考えてみれば、このお花屋さんが面する通りの先に大学も高校もある。

 そういうことかと由布はしぶしぶ自分を納得させようとして、ついでに最後に買って行った人の特徴を訊いてみた。訊いたからってどうにもならないことは、当然由布も分かっている。店員のお姉さんは少し首を捻って駅の方を見た。

 時間は十五分前くらいで、あなたのお父さん世代かな? 四十代くらいの格好良い男性でしたよ。ノーフレームの眼鏡をかけていました。


 ……また?


 三軒目も四軒目もスズランの花は売り切れていた。

 そして、最後に買った人を訊くとどちらでも同じ答えが返ってくる。四十代くらいの男性。ノーフレームの眼鏡。三軒目の店員さんはその男性と少し会話して、贈る相手は家族だということと、今年は幸せがたくさんある年になって欲しいから、だと聞いたそうだ。

 由布は駅から近くて家に帰るのが楽な順にお花屋さんを訪れていたが、その男性は逆に、駅から遠い順にお花屋さんを回っていた。

 つまり由布が行った四軒目から順に三、二、とカウントダウン、だんだん駅に向かって行く感じ。もしかしたら、電車を利用する人だったのかもしれない。でも、匂いの強いスズランの花束をいくつも、暖かい電車内で持っているのはかなり目立ちそう。
< 11 / 26 >

この作品をシェア

pagetop