ゆーとゆーま
 けれどこれで捜索は終わり。

 四軒目で由布の知っているこのへんのお花屋さんは底をつき、一縷の望みをかけて花が売ってそうなスーパーに入ってみてもスズランは売り切れ。ゆーまに贈る分のスズランは、ゆーまと交換するはずだったスズランは、どこにもない。

 
 ゆーまに幸せは、やってこない。


 帰るしかなくなって家路をとぼとぼ歩いていると、ふいに、アスファルトに濃い色の染みが落ちた。

 由布が目を見張ると二つ三つ、それから一気に数が増え、雨粒が地面に叩きつけられる音がする。空は灰色に白い絵の具を一滴たらしたようにかげっていた。夏にある豪雨の暗闇ではない。でも、太陽が隠されて光が見えない。

 カンカンカンカン……。
 踏み切りが鳴り出した。小走りで渡っていく多くは傘を持ってない人達だった。

 やっぱりね、と言わんばかりに折りたたみ傘を広げた親子連れはゆっくりと歩いて来て、黄色と黒のしましまの前で立ち止まる。

 由布はといえば急ぐことも電車が通り過ぎるのを悠然と待つことも出来なくて、濡れるのを甘受して立った。

 長袖の白シャツが腕に張り付く。水気を含んだ髪は頬に。由布は眉間にしわを寄せ、けれど気持ち悪さから逃れるための行動には出なかった。今の由布は、どこかで雨宿りしようと思うのですらおこがましい。
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