ゆーとゆーま
 このまま風邪引いて熱出して寝込んじゃえば良いんだ。

 ベッドから起き上がった時にはゴールデンウィークなんか終わっちゃってて、学校に行ったら当たり前のようにゆーまがいて世話焼きな美依に細々言われる、そんな毎日に戻っていれば良いのに。
 

 由布ちゃん?


 電車の音にかき消されそうになりながらも、その声はきちんと由布に届いた。聞き覚えのある、否、毎日のように聞いている声だった。虚ろに振り向いた先にいたのは、赤と黒の色違いの傘を差し、それぞれ二つずつスズランの花束を抱えた、一組の――。

 おじさん、おばさん……。

 ゆーまの両親だった。

 
 ゆーまの家では、毎年、五月一日にスズランを買ってくるのはゆーまの役目だった。しかし、今年はゆーまが買いに行けない事情にある。

 贈られた相手に幸せが訪れるというジンクスにすがって沢山買いたいと思う事情を、由布は知っている。申し訳なさそうにしている二人を責める気持ちはなかった。

 ゴールデンウィークに合わせて前倒しの休暇を取り、スズランが品薄になってくるだろう夕方を見計らって買い物に出かけた。買うのはおじさん、それを受け取って持ち歩くのはおばさん。道理でいくつも買っていてもお花屋さんの方から断られないわけだ。

 おばさんはお花屋さんに見えないところでおじさんを待っていたのだから。
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