ゆーとゆーま
 ふいに美しく整った指先が折り畳み式の関節部分近くを包んで、上にすぽっと。思いもよらない方向から力がかかり抵抗できなかった。咄嗟にホームボタンを押して、ゆーま宛てメールの送信完了画面を美依に見られなかったのが幸いと言うところか。

 何するの。

 振り向いて睨むと、その視線から逃れるように美依が少し顔をそむけた。ケータイを後ろ手に隠したまま、由布の横で上半身を傾けて紙パックりんごジュースをテーブルに置く。片手を空けるため豊かな胸にジュース二つを押し付けていたようだ。

 だってゆーったら、私といるのにケータイばかり。友達に対して失礼だと思わない?

 友達だったのか、と、ぽろっと口に出しちゃうほど由布は間抜けではない。

 しかし表情に出ていたらしく美依はますます不満そうに唇を尖らせて、急ぎの用なら返すけど、それ以外はだめ、と言いながら自分の席についた。

 哀れケータイは美依のおぼんの横。
 無理やり取り返せる距離ではあるものの、その自信はない。手を伸ばしたとたん美依に取られる予感しかしないので、由布はジュース代を渡すべくおとなしく財布を開いた。


 鶏竜田は美味しかった。揚げ物の類にあんがかかっているのが新鮮で、あつあつのあんがごはんと竜田揚げをマッチさせている。

 美依は話し上手だし、由布は相槌を打つ程度だけれど、合唱コンクールという話題もあったので会話には困らなかった。本番は青いスカーフをクラス全員でお揃いにするつもりだとか、造花のばらを持って歌うクラスがあるとか。

 気付けば何事もなく十分は経っていた。
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