ゆーとゆーま
 咀嚼のあいだ会話が途切れた時、返答を考える時、美依の話を聞いている時。由布の視線は癖で何度となくケータイに向かったけれど、何も変化はなかった。そう、何も。

 ……うそ。

 美依に取られる前、メールの受信時に緑の点滅があったのを見た。だから電波が不調なわけじゃない。充電は十分なはず。送信画面も確かに見たはずだ。

 いつもならすぐに返信が来るのに。ゆーまは、由布からの返信が遅れるとパニックになるくらい、由布との繋がりを大切にしているのに。

 鶏竜田を半分食べ終えるまで「何もなかった」ことがおかしくて、こんなに恐ろしいとは思っていなかった。

 気になってちらちら確認するのとは違う、大きく目を見開いた姿に何かを感じ取ったのか、由布が動く前に美依がケータイを手に取った。懇願するように胸の前で両手で閉じ込めて、下唇がきゅっとすぼまる。泣きそうな顔をしていた。

 被害者は由布だ。泣きたいのは由布のほうだ。


 美依、それ返して。
 ……嫌。
 お願い。食べ終えるまで見ないから。

 一分以上は続いた我慢比べに負けたのは美依だった。

 突き出した手のひらに、しぶしぶといった様子でケータイが乗せられた。タイミングよく緑の点滅が灯る。

 ……食べ終わったらすぐ、どこか人けのない場所に行こう。由布はそう決めて、宝物をスカートのポケットの中に落とした。
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