キスより甘くささやいて
ぼんやり座っていると、3月の海はちょっと肌寒い。
ずいぶん時間が経ったかな?
もう、帰ろう。
と思い立ち、お尻をパンパンと叩いて砂を落とし、振り返ると
目の前に人が立っていた。
思わず、ヒャッと声が出る。
「おまえさー、この間もそうだったけど、
なんでこんなに近付くまで、後ろに人が来てるってわかんないかな?」
と不機嫌そうに眉間にシワを寄せた颯太が立っていた。
「颯太。びっくりした。何やってるの?」と聞くと
「この格好見れば分かるだろ、ランニングだよ。ランニング。」
そういえば、Tシャツ、短パン、スニーカー。ですね。
「おまえは何をしてるんだよ。昨日もここにいたと思うんだけど…」
おっと、見られていたのか?
「いやー、仕事辞めて実家に帰ってきたら、
朝、目が早く覚めちゃってさあ、散歩ですよ」と、笑うと、
「無職で、スッピンで、その格好。まるでやる気が見られないな」
と、更に眉間のシワが深くなる。
…悪かったですね。






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