キスより甘くささやいて

愛しい日々

1月に入った。
新年に入っても、gâteauは忙しい。
お正月の集まりや、お土産にgâteauのお菓子を選んでくれるお客様で賑わっている。
私がエンゲージリングを付けていることで、
常連の女性のお客様がそっと溜息をつくのがわかる。
まあ、タウン誌にも載せられていたように、
颯太は私に柔らかく笑いかける。
他にも笑顔を見せることはあるけれど、
仕事中の颯太は、だいたい眉間にシワを寄せていることが多いから、
gâteauで笑顔を見せることはまれなのだ。

「美咲、チョット、手伝って。」と颯太が厨房から顔を出し、私に笑いかける。
私が、颯太に振り向き返事をした後、お客様に向き直ると、
女性のお客様がチョット頬を染めて、
パティシエの笑顔って、初めて見ました。と口の中で言って、
ご結婚されるんですか?と私に尋ねてくる人は少なくなかった。
私は笑って、曖昧にやり過ごし、
横でオーナーが笑いながら、
うちのパティシエはこの人にゾッコンで…と余計な補足してくれるっていう状態が少し、続いた。
「オーナー、私、仕事中指輪外した方が良いような気がしますけど
…なんだか売り上げに響いてこないかなあ?」という心配に、オーナーは
「こんなに忙しいのは、僕は嫌だから、お客様が減っても、構わないよ。
それに、指輪外せないでしょ。颯太が着けさせてるんだから。」と笑い、
「颯太の機嫌が悪い方が売り上げに響くよ。」と続けた。
私はチョット恥ずかしい。



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