キスより甘くささやいて
あ、そうそう、
「颯太!ケーキすごく美味しかった。
スポンジが口の中でフンワリ溶けて、なんていうか、オトナの味。
クリームに混ざってたいい匂いはお酒?」と聞くと、
颯太の眉間のシワがゆっくりなくなって、唇の端がクッと上がる。
おお、そうやって笑うと、いいオトコにみえる。
「ふーーん。おまえ、鼻がいいんだな。
あれはイチゴのリキュールが少し混ぜてあるんだよ。」と笑う。
「颯太がパティシエって、なんか以外、っていうか、思いもしなかったなあ。
でも、よく、部活の帰り道でお母さんの手作りのクッキーとか、
パウンドケーキとか食べてたかもって思い出して、
なるほど、って思ったよ。
何度かおすそ分けしてもらって、食べたことがあったけどさあ、
すごーく美味しかったよねえ。」と言ったら、
「お前におすそ分けした覚えはないね。
勝手に略奪してただけだろ?」とまた、眉間にシワが寄ってきた。
「そ、そうだったかな?」とちょっと、過去の自分の傍若無人ぶりを思い出す。
颯太は昔はチビで、ヒョロヒョロしてたから、
後ろから近づいて、彼が持っているお菓子や、お弁当のおかずを
パッと、持ち去って情けない顔をする彼をからかっていたかもしれない。
懐かしい昔話?
もしかして、彼は結構根に持っていたりして…とちょっと、考える。
今は、
今ならきっと、この身長と仏頂面を持ったオトコになんて、
ちょっかいを出す勇気はない。と思い至り。
仕返しされたらどうする?と思う。

「美味しかったです。ごちそうさま。
次は違うのも食べてみたいなあ。
今度、ケーキ屋に行くよ。」
と階段を一緒に上がりながら早口でその場を立ち去ろうと話す。


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