キスより甘くささやいて
七里ガ浜の海に降りる階段で今日もぼんやりしてから、山猫に向かう。
今日は颯太と暮らした家がなくなってしまっていたことが分かって、
少し、放心状態だ。
目を閉じて、耳をすますと、
私の名前を呼ぶ声が聞こえるけど、
少し、哀しげで、私も悲しくなる。

大丈夫、私の中の思い出は消えない。
そう、自分を励ました。


山猫のドアを開けると、
「ハッピーハロウィン!」
とミニスカートのデビルに扮したシルビアママにで迎えられる。
私にオレンジのカボチャの被り物をかぶせ、
黒いマントを着せる。
「ミサキチは、カボチャのしもべよ」とニッコリする。
どうせなら、カボチャの妖精くらいにして欲しい。
「哲也、写真撮って!」と私を抱きしめポーズを作る。
「イエーイ」と楽しそうだけど、私は仏頂面を作る。
「そんな顔しないの。」
と笑って、私に雑誌を手渡した。

なに?
付箋が付けられているページを開く。



< 133 / 146 >

この作品をシェア

pagetop