キスより甘くささやいて
私はいつものように、海に降りる階段の途中に座って、
目を閉じて、波の音に耳を澄ませる。
颯太の声が聞こえてくる。

不意に後ろから、
「美咲」と声が聞こえて、私の体を強張らせる。

私の後ろにどっかりと座って腕を回して、強く抱きしめてくる。

「何で、こんなに近付くまで気がつかないかな?」と笑った声が耳元で聞こえる。


…颯太だ。


私は驚く。
「反応薄いな〜。3年ぶりに夫に会ったっていうのに。他に男でもできた?」
と私の左手をなぞり、指輪よーし。と呟き、
ゆっくり、私の唇に颯太の唇を重ねてくる。
颯太は深く唇を合わせ、私の口の中を舌で探り、私の舌をとらえて、絡ませてくる。
唾液を混ぜて吸い上げる。

私は、やっと、我に返って、
「颯太、どうしたの?」
と切れ切れに言ったけど、颯太は
「黙ってろ、やっと、キス出来たんだから。」と言って、私を黙らせ、
何度も唇の角度を変えながら、長くくちづけて、やっと、唇を離すと、

「はい、立って。」
と手を引き、立たせて、手を握ったまま、どんどん歩き出す。
私は手を引っ張られながら、
「颯太、どうして、ここにいるの?」と聞いた。
「帰ってきたに決まってるだろ。」と言いながら、海辺のホテルにを目指す。

「おまえさ、昨日、山猫で寝てただろ。
俺が昨日迎えに行ったら、ぐーぐー寝てて、
俺はやる気充分だったのに、お預けだぜ。」と額にシワを寄せる。
ものすごく懐かしい表情だったけど、
えーと、それって、私が山猫に来るって知ってたって事か。と思い、
「いつ、帰ってきたの?」とエレベーターの中で聞くと、
「1ヶ月前。」
と短く言って、私を深く抱きしめる。
「俺だって、美咲が卒業のレポートを書き上げてる間くらいは、そっとしてあげられる。
それに、俺は美咲の住んでるところも、連絡先も知らないし。」
と眉間にシワを寄せる。…ごもっともな意見だ。
カードキィで部屋の扉を開ける。
ここは、前に泊まったスイートだ。


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