キスより甘くささやいて

紫陽花の咲く頃

6月に入った。
今日私は颯太と gâteau 、
今はお店の名前を変えた gâteau kazama (ガトー・カザマ)
で結婚式をあげることになっっている。
颯太はgâteauのままで良いと思ってたみたいだけど、
今では風間 颯太の名前はパティシエの世界では有名なので、
ぜひ名前を入れるように片岡さんにアドバイスされたからだ。
(始めのうち、颯太は店の電話に出るとき、
gâteau kazamaです。とものすごく顔を赤らめて言っていた。)
私は夏希ちゃんに髪を整えるのを手伝ってもらい、ベールを被る。
大袈裟なドレスは止めて、
膝下の丈の真っ白なワンピースタイプで、
飾りは胸元のレースだけの体のラインに沿った物を選んだ。
首にかけられたパールのネックレスとお揃いのピアス
は颯太のお母さんが私に遺してくれたものだ。
(私の名前が書かれた箱に入っていたらしい。
その他、贅沢な、幾つかの宝石類が入っていて、
新居の金庫に入れられている。
やっぱり、颯太の家はお金持ちだ。)

夏希ちゃんが
「はい、出来上がり。やっぱり、短いドレスにして良かったね。
ミサキチちゃんのスタイルが良いのがよく分かる。あっと、お姉さん。」
と言い直して、舌を出した。私は笑って、
「ミサキチでいいよ。なんだか変な感じだし。」と顔を見合わせて笑う。
颯太は白いタキシードに顔をしかめながら、
「なんだか、頭が悪く見えないか?」
と不機嫌な顔をして、さっき、部屋を出て、挨拶に回っている。
弟の祐樹が部屋をノックし、
「みんな揃ったよ」と顔を出し、
おっと、馬子にも衣装だね。と呟いて、出て行った。
失礼な。
夏希ちゃんがまた、後で。
と出て行って、
私は1人で部屋に残される。
< 144 / 146 >

この作品をシェア

pagetop