キスより甘くささやいて
「人気のサバラン。おまえ、アルコール大丈夫だろ。」
といいながら、颯太がコーヒーと一緒にケーキも運んできた。
私は頷き、フォークを取る。
見た目が華やかなケーキじゃないものが、人気ってことは、
常連さんはきっと、彼の作るケーキの味が良く分かっている舌の肥えた人達かもね。と思う。
フォークを入れると、中からシロップがジュっと溢れる。
ブランデーの香りがふわりと香る。
切り分けた断面はしっかりとしていて、食べ応えがありそうだ。
いただきます。と口の運ぶ。
予想どうり、濃厚で、しっかりしたケーキだ。
オレンジの皮がが混ざっているようで、ブランデーとよく合っている。思わず
「美味しい。」と口を押さえて、笑うと、
颯太の唇の端がクッとあがるのがわかった。
ちょっと悔しいが、このケーキはとっても美味しい。
「お酒とオレンジの香りがサイコー、
生地の食感も崩れすぎなくて、きちんと残ってる。」と言うと、颯太は満足そうに微笑んだ。
「そいつは、ブランデーとオレンジのバランスに苦労した。
生地の口溶けも何度もやり直してる。
おまえさ、かなりケーキ好きだろ。」と言った。そして、
「やっぱり、おまえ、ここで働かない?
この間食べたヤツもこのケーキも、おまえはちゃんと俺のケーキの特徴が分かってるって思うんだよな。」
と私の横に座る。
オーナーと颯太。2人でそんなに見つめないでほしい。
「た、食べてもいいですか?」
とフォークを持ち直す。
まだ、見てる。

…食べにくい。
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