キスより甘くささやいて
「おまえー、波打ち際でなにしてたんだよ?」
と住宅街に続く階段を上りながら颯太は聞いてくる。
「んー、桜貝ってこの季節に砂浜で拾ったかなと思って…でも見つからなかった。」
と言うと、颯太はちょっと考えて、
「それって、由比ヶ浜なんじゃないの?」と言った。
そうだったかな?
私が疑わしい顔で颯太を見ると、
「そうだって。
うん。じゃあ、確かめに行こうぜ。」
と私の手をつかんで、急に足を早める。

「い、今から?」
と私は、長い階段に息が切れそうだ。
「桜貝、拾いたかったんだろ?」
と聞かれ、まあ、そうですけど。
颯太はにっこり笑って、
「付き合ってやるよ。俺、今日休みだし。
30分後に迎えに行くから、その、やる気のない格好は着替えとけ。」
と、言って、私の手をギュッと握ってから、離し、階段を駆け上がって行った。
ま、待ってよ。30分じゃ、支度は無理だって、
という言葉は息が切れて、言葉にならない。
馬鹿。
私の意見もちゃんと聞け〜!


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