キスより甘くささやいて
食後のコーヒーを飲みながら、
私は気になっていた事を聞く事にする。
「颯太のお母さん、って、どうしたの?」と尋ねると、
颯太はちょっと、息をついて、
「子宮ガンだよ。
5年前に発症して、随分治療もしたんだけど、もう、打つ手がなくってさ、
去年近くの療養型の病院に移った。
うん。もう、長くは生きられない。と思う。
うちの家族って高校の時は4人だったけど、
父親は俺が20歳の時にくも膜下出血ってヤツで、倒れて、そのまま死んだんだ。
ひとつ下の妹は5年前に嫁に行って、今は福岡にいる。
俺は高校卒業した後、製菓学校に入って、フランスに行ってたんだ。
母の具合が悪いのって、知らされてなくってさ、
妹がずっと世話をしてくれていた。
ちょうど2年前、コッチで店を出そうと思って帰ってきたら、
こんな事になってた。
俺は、実家に戻って、妹は旦那の転勤について行った。ってわけ。
雇われパティシエの方が気が楽だし、休みも取れる。
母のいる病院に通いながら、生活してる。
他に質問ある?」と私を見た。
私は横に首を振る。
颯太が、目でおまえも話せと言っている。
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