キスより甘くささやいて
七里ヶ浜の駅を通り過ぎる。どこに行くんだろう?
「江ノ電乗らないの?」と私が聞くと、颯太は
「近所なんだよ」と笑った。
海沿いはおしゃれなお店が並んでるけど、ママが居そうな飲み屋に心当たりはない。
海に向かう道で山側に向かう。
なるほど、山側か。
街灯がポツポツしかない、少し暗い道を5分ほど歩くと、
ワインレッドの薄暗い看板が少し光って見える。

BAR 山猫。
その店はポツンと立っていた。
周りに建物はない。
暗いからよくわからないけど、真っ黒で四角い角砂糖みたいな建物だ。
窓から灯りも漏れていない。
こんな店には女の子1人では入れないな。
ちょっとひるむほど、あやしい雰囲気だ。
颯太は躊躇なく黒いドアに手をかける。
カランカランとドアがベルが鳴る。
ちょっと時代遅れのの雰囲気だ。
時間が早いせいか、お客さんは誰もいない。
中はシックな黒で統一された内装に、長いカウンター。
テーブル席は5つかな。
カウンターの後ろにあるだけだ。
奥に4人掛けくらいのソファー席がある。
でも、こじんまりしたお店かな。
間接照明だけだから薄暗いけど、案外とすっきりした雰囲気でこわくない。
低く流れているのはJAZZだ。と周りを見回す。
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