キスより甘くささやいて
「やっと、来たわね。ミサキチ」
とカウンターの中から声をかけられた。
私は薄暗い店内で
キラキラと輝く身体にピッタリした紫のスパンコールのドレスの金髪の女性を見つめた。
胸の谷間が覗くドレスを着こなした彼女はスタイル抜群だ。
私なんか太刀打ち出来ないほど美しい。
しっかりほどこされたお化粧の顔をジーッと見つめるけど、
ちっとも誰かわからない。
「私よ。山岸 徹(やまぎし とおる)」
「へ?」
私の知ってる山岸 徹は、確か男だったはず。
高校のクラスメートで、
バスケットボール部だった彼は、颯太と仲が良かった。
名前が山岸だから、私の後ろの席に座ってて、結構、おしゃべりした。
いや、すごく仲良しと言っていい。
よーく顔を見る。
猫の目のような金色のコンタクトレンズをしてて、
印象は別人だけど、笑った表情は知っている気がする。
「トオルなの?」
「わかった?ミサキチ。私、オンナになったのよ。」
と大きな笑顔を見せた。
私は、口が開いたまま、口がきけない。


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