キスより甘くささやいて
今日は月に1度お母さんのお見舞いに来る、
颯太の妹の夏希(なつき)ちゃんに会った。
顔を合わせるのはもちろん10年ぶりだけど、
人懐っこい笑顔はそのままだ。
夏希ちゃんは海の側にある私立のお嬢さん学校に通っていたから
水色のセーラー服の印象が強い。
「ミサキチちゃん、お久しぶりです。
母の話じゃ、恋人って事になってるけど、
本当のところは、どうなんですかぁ?」とニッコリする。
いや、まだ、付き合っていませんけど。
と言おうと、口を開きかけるが、颯太が横から、
「今、頑張って、口説いてるところだから、
いろいろ聞いて、邪魔すんな。」と眉間にシワを寄せる。
夏希ちゃんは
「まず、その眉間のシワ、なんとかしないと嫌われそうですよ。」
と笑いながら、言って私に向き直り、
「母が、ミサキチちゃんの話ばっかりするの。
とても楽しそうで、私も嬉しい。
本当にありがとう。
ミサキチちゃんに貰った、
ラベンダーの匂いがする、ハンドクリームとか、
紫陽花の形の髪留めとか、
母のお気に入りで、
兄とは違う女らしい気遣いで、すごく助かっています。」
と深く頭を下げた。
きっと、夏希ちゃんもお母さんの側にいたいよね。私は笑って、
「夏希ちゃんや、颯太のようには出来ないけど、
夏希ちゃんのお母さんとは仲良しのつもりなんで、
これからも、よろしくおねがいします。」と夏希ちゃんと握手した。
「お兄ちゃんは、本当は、東京で自分のお店を持って、
パティシエのコンクールを目指すつもりだったのに、
私と母のために諦めて、ここにいるの。
きっと、辛い決断だったと思う。」
と私に話しかけたけど、颯太が、
「その話は2年前に終わった話だよ。
どこにいてもケーキは作れるし、
俺は結構満足してる。
今のオーナー自由にさせてもらってるし、
ここにいたから、美咲にも会えた。」とおどけて笑う。
夏希ちゃんは
「昔っから、お兄ちゃんは、ミサキチちゃんが大好きだったしね。」
と笑い、私は赤くなって、俯いた。
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