キスより甘くささやいて
颯太はオーナーと私に、
フランスにいた時、スイーツの記事を書くライターになりたいって言ってた彼女と知り合った。
俺の作るケーキを気に入ってくれてね。
と少し困った顔をしてから、
「俺が運んでもいいかな?」と聞いた。オーナーは笑って、
「どうぞ、混んでないからゆっくりはなしておいで。」と颯太に笑いかけた。
颯太は私を厨房に呼んで、向き合って立つ。
彼女について私になんて説明しようか迷っているみたいに見える。
私が先に口を開く。
「昔、付き合っていたオンナの人?
仕事中に私に説明する必要はないんじゃないかな。」と笑ってみる。
「ちょっとだけ聞いて欲しい。
付き合っていたわけじゃないけど、
彼女がフランスに滞在してた1ヶ月位の間、…何度か会ってた。昔の話だよ。」
…ナルホド、何度か寝たって事か。
うん、別に私に言う必要はないでしょ。と、後ろを向いて部屋を出ようとすると、
「美咲、そんな顔をしないで、
俺が美咲の事好きだって知ってるくせに…」
と私を後ろから抱きしめ、首筋に顔を埋める。
「仕事中ですよ。」
と腕をほどいて、厨房を後にする。
私はどんな顔をしてるんだろう?
颯太の過去に嫉妬しているんだろうか?と思い至り、自分に腹がたつ。
ショーケースの前に立つと、オーナーが
「スマイル」と私に笑いかけて、口角を上げる仕草をしてみせる。
私はオーナーに笑いかけると、
気持ちを切り替えた。
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