キスより甘くささやいて
小泉さんは、私の持ってる荷物を見て、
「やっぱり、あなたは家族同様なのね。」と笑いかける。
颯太のお母さんに会いたかったけれど、
家族以外は面会禁止だって言われてあえなかった。
お願いしたい事があったのにちょっと無理かな。と笑い、
あなたにお願いしようかな。と真面目な顔で私を見た。
私が先に立ってコーヒーの自動販売機の横にある、ソファーに案内する。
少し、奥まったそこには今日も人の気配はない。
並んで、座ると、彼女は話し出した。
「私は風間くんがフランスでパティシエの修行をしてた頃に出会った。
その頃の彼のケーキは繊細なものもあったけど、
大胆で、挑戦的な味のものもあった。
彼が作る、オペラってケーキはとても濃厚で苦味も生かしたケーキで、
誰もが好む仕上がりにはなっていないけど、
何人かには熱狂的に必ず支持された。
私も彼のケーキに才能を感じたの。
2年前、東京に戻って、コンクールを目指すって、他の記者から聞いていたのに
突然消息が分からなくなった。
昨日、お家の都合だって、聞いて、今日、自宅を訪ねた。
誰もいなくて、近所の人に聞いて、ここにたどり着いたの。
できれば、彼を、コンクールを目指すようなパティシエにに戻して欲しいって、
ご家族にお願いするつもりだったけど、すぐには無理そうね。
彼はここを離れられないんでしょう?」と私に尋ねる。
「彼はここにいることを選んだ。って聞いています。」とだけ話した。
小泉さんは溜息をついてから、名刺を私に渡す
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