キスより甘くささやいて
「彼がまた、コンクールに挑戦する気になったら、ここに連絡をください。
出来るだけ、力になりたい。
昨日持って帰ったケーキはほとんどが、ここに住む人が好むような物ばかりだった。
私は、また、コンクールに出すような、彼のこだわりが詰まったケーキを食べてみたい。
お願いします。」と私に頭を下げて、
「あなたは、彼の1番近くにいる人でしょう?
フリーペーパーに写っていた柔らかい彼の笑顔は、
私に向けられた事はないって思って、少し悔しかったわ。
あなたのいう事にならきっと、耳を傾けると思うの。
コンクールに出る事は彼の目標だったはずだから、
チャンスがあったらチャレンジするよう勧めて欲しい。」と言って、立ち去った。
彼女の言葉で、私の知らなかった颯太の事を知った。
少し哀しい。
缶コーヒーを飲んで、静かに考えてから颯太のお母さんが待つ病室に向かった。
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