キスより甘くささやいて
颯太のお母さんは相変わらず、優しい。
多分、痛みが強い時もあるはずだけど、
私にはそんな様子を見せる事はない。
イルカの抱き枕は気に入ってもらえたみたいだ。
嬉しそうにイルカの顔を撫でて、笑う。
私はお母さんをゆっくり起こして、背中の向きを整え、イルカを当ててみる。
背骨が出っ張っているところと、ベッドの間に上手く収まった。
お母さんは
「柔らかい」と喜んでくれた。よかった。
「身体を動かす時、また上手く当ててもらえるよう、
ここの看護師さんに頼んでおきますね。」と話して、少し、足のマッサージをする。
血行があまりよくないみたいで、いつも冷たい。
最近、遠慮されずに、お母さんはの身体にさわれるようになってきた。
私ができる事は限られているけど、少しでも、心地よくに過ごして欲しい。
そう思って、接している。
この間行った水族館の話や、子供の頃に通った、昔の水族館
(江ノ島にある水族館は、数年前に建て直されている。)の話を楽しくした。
颯太のお母さんはは、ミサキチちゃんと呼んで、
「鎌倉の花火大会もうすぐね。もう1度見たかったな。」と微笑む。
そういえば、颯太も家族と花火大会をよく見に行ったって話してた。
「颯太と行って、どんな風だったか教えて欲しい。」とお願いされた。
花火大会か。
確か7月の終わりに予定されているはず。
私はすっかり忘れていたけど、由比ヶ浜で毎年おこなわれているはずだ。
「花火大会か。すっかり忘れていました。久しぶりに出かけるのもいいですね。」
と私もにっこり微笑んだ。
颯太のお母さんにも見せてあげたいな。
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