キスより甘くささやいて
後、3日後の花火大会だ。
颯太のお母さんの浴衣を選んだり、
送り迎えの介護タクシーの手配や、
担当医師との打ち合わせをしたりと、私達は忙しく過ごしている。
当日は夏希ちゃんもやって来て、ホテルに宿泊する予定だ。


今日のgâteauもお客様がたくさん来た。
夏休み中だからか
子供向けのお酒が使っていないケーキがたくさん売れた。
夕方5時の今は、ショーケースの中が寂しい感じになったので、
少し真ん中に集めておこうとかがんでケーキのトレイを移す作業をしていて、
そのお客様が入ってきたことに気づくのが遅れた。
オーナーのいらっしゃいませの言葉につられて、私もかがんだまま、声を出す。
「…美咲」
とショーケースの内側にいる私を覗き込んで来たのは、
相変わらず、男前の笑顔を見せた智也だった。
ガッシリとした体つきで、彫りが深いクッキリとした顔。
クシャッと微笑むと、35歳という年齢よりも幼い印象になる。
自信家でマイウェイなヤツなはずだけど、
今は少し、遠慮がちの笑顔だ。
私は驚きすぎて、しゃがみ込んだままだ。
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