キスより甘くささやいて
私は、
「私は智也が大学病院に戻りたいって、思ってたなんて、ちっとも知らなかった。
私の他にも付き合っている人がいるって知った事も悲しかったけど、
それより、私は智也のやりたい事や、何を考えているのかちっともわかってなかった。
いつからこんなにわからないまま一緒にいたんだろうって思ったら、苦しくて、
あの部屋や、あの病院にはいられなかった。」
と別れてから初めて智也にキチンと話せた。
「大学病院に戻りたいって思ってたのは美咲と出会う前からだったけど、
誰にも言えなかった。かっこ悪いだろ。
昔、自分が若い頃、部長に楯突いて、左遷されたって事は自分の胸にしまっておいた。
でも、去年の夏に突然見合いの話が来て、
大学病院に戻れる望みが出てきたら、
蓋をしてた出世欲がムクムク膨れ上がって、止められなかった。
相手のオンナは随分と遊んで来たらしく、面倒がなさそうだった。
オンナは身辺整理だけはキチンとして。と笑って、
俺が、美咲と半分同棲してる事も知ってたみたいだった。
俺は自分だけの未来に目が眩んで美咲を傷つけた。
すごく後悔してるんだ。
美咲が物分りが良くて、何にも文句を言わないことに甘えてた。
…ゴメン。」と智也は頭をさげた。
プライドが高い智也が私に謝るのは初めてかもとちょっと思う。

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