キスより甘くささやいて

私は颯太の運転する車の中にいる。
私が「遠回りして帰りたい。」と言ったので、
葉山までドライブする事になった。
颯太は前を向いたまま、喋らない。
私も少し疲れたので、黙ったまま、暗い海を見つめる。
さっき帰っていった、智也の事を思い出す。
颯太に殴られて、すっきりしたのか、いつもの様子を取り戻し、
「ケーキを買って帰りたい」と言った。
颯太が
「店は閉めた。」と断ると、
「またやって来てもいいって事かな？」と颯太に笑いかける。
颯太は思い切り、眉間にシワを寄せ、
「もう来るな」と、低い声で怒りを滲ませる。
オーナーが笑って、
「買っていって。」と言う。
また、こんな事になったら、僕も困る。
と言いながら、残っていたケーキを持ってきた。
「美咲、どれがオススメ？」と聞くので、
「颯太のケーキはどれも美味しいですよ。」とにっこりすると、
「選べないなら、全部貰っていく。
美咲も包んでもらおうかな。」と言って、颯太をからかう。
やれやれ。
颯太の怒りはMAXだ。

私は、智也が、店を出る前に
「あなたと婚約した人はきっと、あなたの事が好きよ。
女って生き物は嫌いな男と結婚なんか出来ないんだから。
ちゃんと、向き合って。」と教えてあげた。智也は
「そのつもりです。」と私ににっこり笑いかけ、
「幸せになって。」と私の頬をそっと撫でた。
颯太は、
「余計なお世話だ！！」
と智也の背中に怒鳴り返し、
智也は笑って、車で去っていった。