キスより甘くささやいて
夜になった。
花火が打ち上げられる。
長い時間は外に出ていられないと思ったので、
1時間くらいの外出予定にしてある。
ゆっくり準備を始めるけど、
颯太のお母さんは子どもみたいに早く見に行こうと私たちを急かす。
私は輸液ポンプを止め、鎖骨の下にある輸液をロックして、薬品を注入し
(戻った時、輸液が詰まらないように)取り外す。
尿パックも、チューブをロックして取り外す。
背中の痛み止めは自動で24時間動いているので、
肩掛けバッグに収納して、お母さんに持ってもらう予定だ。
夏希ちゃんと一緒に浴衣を寝せたまま、着せる。
颯太が起こして車椅子に乗せる。
うん。少し痩せすぎているが、重病人には見えなくなった。
夏希ちゃんが色のついたリップクリームで唇に色をつける。私が
「とっても綺麗ですよ」というと、嬉しそうに微笑んだ。
「痛み止めの注射、持ってきています。痛むようなら言ってください」と話すけれども、
「今日はちっとも痛くないの」と言って、早く行こうと微笑んだ。
エレベーターで1番上の階まで上がり、
非常階段の前で、颯太がお母さんを抱いて階段を上がる。
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