キスより甘くささやいて
屋上のドアを開けると大きな花火の音が鳴り響いた。
建物の一角から花火が大きく見える。
綺麗だ。
従業員の人達が見物している前に、お母さんのための椅子が置かれている。
私達は挨拶しながら、前に進んで、ゆっくりお母さんを座らせた。
下駄を履かせて、背中にクッションを当てる。
その間もお母さんは花火を見上げ、小さく歓声を上げる。
良かった。喜んでもらえている。
私と夏希ちゃんが両脇に座って、おかあさんを支えながら花火を見る。
颯太は、支配人の南さんに挨拶する。
「ありがとうございます。母に花火を見せてあげる事が出来ました。」
と深く頭を下げる。南さんは、笑って、
「こちらこそ、お土産に美味しいお菓子いただきました。
評判通り、とても美味しいね。
僕はあんまり甘いものは食べないんだけど、
すっかり、gâteauのファンになりそうだよ」と言ってくれていた。


花火が幾つも上がって、もうすぐ、終わる時間だ。
お母さんはずっと花火を見つめて、楽しそうにしている。
痛みはあんまりなさそうだ。
私は、そっと、腕をとって、脈を確認したり、呼吸数を数えたりして安心する。
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