キスより甘くささやいて
部屋に戻ってお母さんをベットに寝かせると、
お母さんは直ぐに眠ってしまった。
きっと、すごく疲れたんだろう。
私は浴衣のまま、チューブ類を整え、輸液を開始する。
明かりを落とした中に輸液ポンプが正常に動いている緑色のランプが点滅する。
脈拍や血圧を測って、問題がなさそうな事を確認して、また、担当医に報告する。
今日担当の先生は当直をしてくれている。戻ってからも安心だ。

颯太は窓の外を覗き、
「すごい人だ。しばらく帰れないな。」と笑う。
夏希ちゃんはちょっと、コーヒー買ってくる。と言って、颯太に笑いかけてから、部屋を出て行く。
ちょっと、あからさまに、いなくなったでしょう?と思ったけど、
颯太は私をそばに呼び寄せる。
お母さんがい眠っているので、小さな声で話すのに私を抱き寄せて、
「美咲、ありがとう。
美咲がいなかったら、母を連れ出せなかった。本当にありがとう。」
と私を眼鏡の奥の柔らかい眼差しでじっと見つめる。
そんなに見つめられると、結構ドキドキするな。と思いながら、
「お役に立てて、良かったですよ。」と笑ったら、颯太は、
「俺も美咲の役にたちたい」とそっと、唇を重ねてくる。
「美咲に何もしてあげられないのがもどかしい」
と言いながら、何度もくちづける。私はくちづけの間に息継ぎしながら、
「海で拾ってもらった。
毎日そばにいてもらった。
今は、たくさんキスをくれてる。
じゅうぶんですよ。」と言うと、
「美咲、愛してる。俺は美咲が全部欲しいよ。」
といって、私のシャツのボタンをひとつだけ外し、鎖骨の上にキスマークを付けて、
「予約の印。」
と耳を甘く噛んだ。
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