キスより甘くささやいて

私は店の電話から暗記している智也のスマートフォンの番号に電話をする。
この時間なら、緊急のオペがなければ、連絡がつくかな？
コール音を5回待たずに智也の声が出た。
「美咲？」と楽しそうな声だ。
「アイドルのブログは智也が後ろにいるの？」と聞くと、
「気がついた？」とクスクス笑っている。
「あの子の主治医俺なんだよ。
腹膜炎になりそうなところを見つけて、緊急オペした。
恩人の俺ののお願いなら聞いてもらるでしょう。」と笑う。
そんなことはしちゃいけないんじゃないかな。
颯太が電話の声が聞こえるように スピーカーホォンのボタンを押しに来る。
機嫌が悪い。
「gâteauのお店に迷惑かけちゃったから、売り上げに貢献しようと思って。
自分で周りの奴等に宣伝するより、効率が良いでしょう。」と智也は自慢げだ。
「ここのお店、ケーキ作るの颯太しかいないんだから、
あんまり宣伝されても困るんですけど」と、機嫌の悪い声で言い返すと、
「知ってる」と笑い
「美咲とデートする時間もなくなれば良いと思って。」と続けるので、颯太が唸る。
「やっぱりあの子どもは、電話を盗み聞きしてるな」とクスクス笑う。
「うるせーよ」と颯太が声を出す。
こんなところで、喧嘩しないでください。
「せいぜい頑張って稼いでくれよ。美咲が苦労しないようにさ」
と言ってから、美咲と真面目な声で呼ぶ。
「俺は、婚約者とやり直せそうだ。
来年、大学病院に戻ることも決まったよ。」と言い、
「ありがとう」と続けた。
私は心から
「おめでとう」と言えた。颯太は
「美咲に連絡してくんな」と念を押す。智也は
「ハイハイ。
美咲から電話がかかってきたら、喜んで出ることにする。」
と言い捨てて、勝手に電話を切った。
やれやれ。
颯太は肩を怒らせながら、厨房に戻る。
オーナーはまた、忙しいのは嫌いだ。
と溜息をついて、店の片付けを始めた。