キスより甘くささやいて
仕事を終えて颯太の家に一緒に行く。
颯太はお母さんの病院に行き、私は夕飯の支度をし、
一緒に夕飯を食べてから、送ってくれるようになった。
休みの前の日は一緒に病院に行き、山猫で食事をしながらゆっくりした。

最近の颯太は、お母さんの具合があまり思わしくないので、疲れた表情だ。
お母さんは痛み止めの強いくすりを使う事になった。
ほとんどに時間は眠っていて、
起きても、夢と、現実の間を行き来している。
颯太と亡くなった夫と、思い違って話をしたり、
私を夏希ちゃんと思ったり、
お母さんはゆっくり、小さな声で、昔の出来事を何度も繰り返し、楽しそうに話す。

今は毎日のように病室に顔を出す颯太は、お母さんの様子が、辛いのだろう。
私を家に送る車を家の近くに止めてから、
何度も私を確かめるように抱きしめ、くちづけを繰り返す。
静かなくちづけは少し悲しい。
「颯太とずっと一緒にいる。」
と私がくちづけの間に何度も繰り返さないと、颯太は腕を離さなくなっている。
もうすぐ悲しい別れが訪れる事を私達は知っているのだ。
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