キスより甘くささやいて
勤務が不規則ななのを理由に連絡がなくても、
安心していたのだ。
自分も仕事や、時間外の勉強会や、後輩や、学生の指導で、忙しくて、
彼もこんな風に忙しいだけだと勝手に思っていたのだ。
関連病院の外科部長の娘とすっかり、婚約寸前だって同僚に聞かされた時は、
驚きすぎて声も出なかった。
彼を問い詰めたら、アッサリ認めた。
今いる病院から大学病院に戻るにはその娘の親父の力が必要なんだ。
そういう事だから、と言った彼は、
どっかの娘と結婚してからも私との関係を続けたいと思ってる。
とほざいて、私を押し倒した。
力の限りに抵抗し、その場は逃げ出したが、
悔しくて泣きながら、夜の道を歩き続けた。
その後もあの男は復縁をほのめかして来たが、2度とふたりきりで会う事はしなかった。
私が退職すると誰かに聞いただろうか?
もう、2度と会いたくない。
でも、私はずっと彼が好きだった。
いつかは彼と結婚して、幸せな家庭を持つのだって
そう思い込んでいたのだ。
悲しくて、悔しくて、
そんな男をすきになった自分が情けなかった。
< 9 / 146 >

この作品をシェア

pagetop