キスより甘くささやいて
11月になった。
颯太の「もう離さないって」言う宣言は結構忠実だ。
颯太の家にいるときは私を腕の中に置いておきたがる。
彼の腕の中を出るには、何度かのキスを受けなければ出られない。
食事の用意する時も、後ろから抱きしめてきたり、くちづけしてきたりする。
結構邪魔してないですか?
おまけにすぐにエッチに持ち込もうと画策する。
おかげさまで、どの部屋よりも颯太の部屋で過ごす時間が多い。
抱き上げられて、階段を上がる颯太を止める方法を私は知らない。
まあ、私も颯太が好きなので、仕方がないと言える。
初めて身体を重ねた時から、颯太はここで一緒に暮らそうと言い続けている。
一緒に暮らしてもいいんだけれど。
迷っているわけではないんだけれど、
決心がなかなかつかない。
一緒に暮らすだけ?
颯太は私とどうなりたいの?
私は、今。の颯太の愛情を信じている。

颯太の部屋の机に
水色のエアメールの手紙が沢山積み重なっているのを私は知っている。
私が
「女の子からのラブレター?」と聞くと、
「フランスで一緒に修行していた先輩で、男ですよ。」と笑う。
「僕が日本に帰ってきた年にパティシエの有名なコンクールで優勝したんだ」と言った。
私にはフランス語はわからないけれど、
沢山、送られて来ている手紙を、片ずけていないのは
きっと、颯太の心に何かがあるからだろう。
そう思っている。


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