能あるイケメンは羽目を外す
見慣れた景色なのに、今日は何故か違って見えた。

目に映るもの全てが色を失なったかのように見える。

空虚で……真っ白で……味気ない。

そして、胸の中に広がるこの喪失感。

理由は考えるまでもない。

彼女……成沢楓だ。

昨日は親父が見合いを勝手にセッティングしたせいで酷い目に遭った。

会った女はいかにもお嬢様と言うようなつまらない女で、まともに相手をする気にはなれなかった。

こっちはあからさまに嫌な顔をしていたのに、その女は自分の趣味や特技を俺に延々と喋り続けた。

日舞に茶道に華道に習字にピアノ……後は忘れた。平和な女。

一生楽して暮らしたいなら、別の男を探せばいい。

俺に媚を売るのは時間の無駄と言うものだろう。

ただただ退屈だった時間。

ブチ切れなかった自分を褒めてやりたい。

気分を変えようと見合いの後にホテルのバーに向かうと、バーカウンターの隅で一人静かに酒を飲んでいる彼女を見かけた。
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