能あるイケメンは羽目を外す
多分、結婚したら新居かどこかに引っ越す予定だったのだろう。

どうでもいい人間なら何も聞かないのが大人の対応。だが、楓は俺にとってどうでもいい人間じゃない。

だから、俺はあえてその話題に触れた。

「楓……この段ボールどうするつもり?このアパートひょっとして引き払うつもりだったんじゃない?」

「それは……」

「このアパートにはずっと住めるの?」

楓は俺の質問には答えず、うつ向いてじっと黙ったまま。

俺に余計な事は言いたくないのだろう。

「近いうちにこのアパートを出なければならないんだね」

楓の表情を見ながらそう結論付ける。

彼女は顔を上げて一瞬目を大きく見開いたが、すぐに俺から顔を背けた。

杉原が彼女には身内がいないと言っていたし、ここを出たらどこにも行く宛てはないんじゃないだろうか。

新しい物件がそんなに早く見つかるとは思えない。
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