能あるイケメンは羽目を外す
杉原さんの姿がないのが気になって陽斗に聞いた。

「杉原さんは?」

「ちょっと前に会社に戻ったよ。まだ仕事が残ってるらしくてね」

「……陽斗はこの仕事……好きじゃないの?」

「そうだね。親の敷いたレールの上を走らされるのはちょっとね」

陽斗は苦笑すると、ドライヤーを止めて私と目を合わせる。

「イギリスにいた時は母親の影響もあってデザインの仕事をしてたんだ」

「……陽斗はお母さんの事、好きだったんだね」

「そうだね。父親は仕事で家にはほとんど帰らなかったから。あっ……そう言えば‼」

陽斗は何か思い出したのか、ズボンのポケットから封筒とハンカチを取り出した。

「これは?」

「楓の忘れ物。封筒に入ってるのは、楓がホテルの部屋に置いて行った三万円。自分に値段がつけられてるみたいで嫌だから返すね」

あっ……ひょっとして私が陽斗を買ったって思われてしまったのだろうか。

「ご、ごめんなさい!そんなつもりじゃなくて……お部屋代にと思って‼」

陽斗が私の唇に「もういいよ」とでも言うように指を当てる。

「わかってる」

優しく微笑すると、陽斗はハンカチを広げ私に差し出す。

母の形見のイヤリングだった。

「大事なものなんじゃない?アンティークな感じだけど、お母さんのだったりする?」

陽斗からイヤリングを受け取ると、私はコクリと頷いてそれを胸にギュッと抱き締めた。
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