保健室の眠り姫は体育教師の受難を夢に見る
放課後の体育準備室に用事がある人はまぁ、いないだろう。ユニフォームに着替えてグラウンドに出て行く野球部員。ボールを運ぶテニス部員の流れに逆らって体育準備室を目指す。
体育館の裏手。
一階から階段を抜けてすぐにある部屋。
ガラガラとスライド式のドアを開けると、市野先生だけがいた。
「……お前、ノックくらいしろよ」
呆れた顔でそう言った先生はスポーツドリンクを飲もうとしていたところのようで。
「すみません」
「心のこもってない謝罪ならいりません」
「……ごめんなさい、市野先生」
「……なにそれかわいい。もう一回言って」
「クソですね」
「お前……」
その顔でクソって言うなよ、なんて、先生には私がどんな風に映っているのか。
本当の私のことを、どう思っているのか。
「お話ってなんですか?」
「あぁ……うん。今日のことなんだけど」
「みちる先生との噂?」
「そう。でもそうだな……その前に、お前の記憶の話をしようか」
そこ座って、と長机をはさんだ先のパイプ椅子を勧められる。さすがに距離遠すぎませんか? と訊くと近付きたいみたいだから言わない。
長机の、長辺の距離。
離れた位置に座らされるとそれはこれから裁判が始まるような気持ちにさせられた。
開廷です。