保健室の眠り姫は体育教師の受難を夢に見る
「そんな怖い顔すんなよ」
「してません」
「眉間のシワすごいぞ。そんな構えなくていいよ」
「詰問ですよこれ」
「いやいや。ただ思い出話をしようって言ってるんだよ。ほら、もうすぐお前卒業だし」
「まだ先じゃないですか……」
まだ三年生になって、ようやく具体的な志望校をちらほら考えだしたところ。
これからまだ体育大会だってあるし、文化祭だってある。高校生としてのイベントはあと一周分残っていた。
「それで、続きだけど。お前がここに来るのは何回目だっけ?」
「……さぁ。何度か呼ばれて手伝いをさせられたかと思いますけど、何回かなんて数えてませんし」
「手伝いって?」
「え?」
「何を手伝うんだ? こんな何もない部屋で」
「そ、れは……」
それは、確かに。
カゴの中のバレーボール。段ボールの中のゼッケン。半分物置になっているこの部屋には、プリントとかそういったものがなくて。運動部でも体育委員でもない私が手伝う義理があるものなんて何もない。
「備品の、整理とか」
自分でも違うとわかっていることを、自信を持って言い切ることは、こんなに難しいことなのか。
「じゃあ、具体的には、何を?」
「……」
「俺、何の整理を頼んだんだっけ?」
それは俺が忘れてるわ、なんて白々しい。
何だったっけ? って言いながら、先生は裁判官の座席から立ち上がった。