保健室の眠り姫は体育教師の受難を夢に見る




ぎゅっと目を閉じたときに。



ザザッとノイズ音がして、部屋の天井に取り付けられたスピーカーから放送が流れる。



『3年A組、糸島さん。3年A組、糸島さん。真庭先生がお呼びですので、至急、保健室まで行ってください。繰り返します――――』



放送部の呼び出しアナウンス。

その声は香月先生とは違って明瞭で、発声もちゃんとできてて。でも呼び出されたことがほとんどない私には、自分の名前を呼ぶアナウンスにはとても違和感があった。



「……行かないと」

「いや、みちるの用事なんてたいしたことじゃないだろ。それより糸島、昼間まわった手紙のこと――」

「ごめん先生」

「なにが?」

「もしも、本当に私と先生が、付き合っていたとして。私がそれを思い出すことは、多分ないと思います」



だから。



「もう、こういうの、やめてくださいね」






失礼します、と言って体育準備室を後にする。

先生の顔は見ずに。





裁判は被告人の離脱で閉廷。

何も明らかにならない裁判で、一番印象に残ったこと。










〝いい加減イライラするわ〟









階段を駆け下りて、保健室まで走る。
誰ともすれ違わなくてよかった。今はどんな顔をしていてもいい。



「……馬鹿じゃないのっ……!」



いい大人が、あんな顔をして。

先生があんな顔をして感情をむき出しにする。



深いキスよりもずっと恥ずかしい。




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