保健室の眠り姫は体育教師の受難を夢に見る
もしあの体育準備室で先生とこっそり会っていたとしたら。
あのジャージの中のきちんと結ばれたネクタイをこの手で解くようなことがあったとしたら。
隠れてそういうことをする背徳感に酔う自分は愚かだと思うし、それこそお姉ちゃんが言っていたみたいに〝あの頃の自分死ねぇぇぇ!〟と思う過去になるに違いない。
もしも。
もしも万が一、本当に先生と私の間にそんなことがあったのだとすれば。
それは思い出さないにこしたことはない。
あのネクタイを、
引っ張ってキスしたこと。
あの長机で。
走りながらぶんぶんと頭を振って何かを振り切る。
保健室のドアを勢いよく開けると、中でみちるちゃんが優雅にコーヒーを飲んでいた。
「あ、お帰りー」
「みちるちゃん」
「そんな息切らして帰ってきたってことはグッドタイミングだったかしら?」
それともバッドタイミング? と魔女は意地悪く笑う。
この魔女は本当に憎たらしい。
悪い王様に美しい魔女。何も明らかにならない裁判。
私の役は何だろう?
答えが見つからないままに切れた息から声を絞り出す。
「みちる先生」
「なぁに」
「市野先生は、」
「うん」
「市野先生は……みちるちゃん的に」
「私的に?」