保健室の眠り姫は体育教師の受難を夢に見る
「昨日、いっちーと真庭先生がデキてるって紙まわったじゃん?」
どきりと心臓が跳ね上がるのがわかった。まさか、生徒にまであれは私がまわした紙だってバレてる?
落ち着けと心の中で唱えて泉谷くんの次の言葉を待つ。
「でも、なんか。あれって変だなって思って」
「……変? そうかな。何も変じゃないと思うけど」
「俺、てっきりいっちーは糸島さんとデキてるんだと思ってたんだ」
「……は?」
思っていたのとは違う指摘にフリーズしてしまう。
「……え? なに、泉谷くん……」
何言ってるの、と冗談にする声のトーンにできない。動揺が少しずつ滲み出ていってしまうのを必死にこらえてる。
「前に体育準備室でキスしてただろ?」
「…………」
嫌な汗がじっとりとキャミソールを濡らす。
なるべく不自然じゃないように目をそらさなかった。
「……泉谷くん。私、先生とは付き合ってないし、キスもしてない」
「別に隠さなくても言わないよ。陰で噂話とかするの好きじゃないし」
「でも、ほんとに」
「ほんとのこと言って」
「……」
「俺、糸島さんのこと好きなんだよ」
「…………」
だからほんとのこと言って、と真剣な目で訴えてくる同級生を前に、思っていたのは「あ、これ少女漫画で読んだことあるやつ」っていうことと、
(…………当て馬……)
とても失礼なことだった。