保健室の眠り姫は体育教師の受難を夢に見る



失礼なことを思ってから、いけない、と思い直す。

最初からこの人のことは好きにならないなんて決めつけていたら何も始まらないし、私の青春は卒倒で終わってしまう。



「………えっと」



でも何を言おう。

キスしていたと言い張る彼に、何と言えば。



「私、ほんとうに覚えがないんだけど……泉谷くんがしてるのはいつの話?」

「俺が見たのは、一年くらい前かな」

「見間違いじゃない?」

「……ほんとに言ってんの?」



っていうか告白しても顔色一つ変えないんだね、と言われてあぁしくじったという思いが募る。今更恥らっても遅い。



一年前か。



「見間違いだと思う」

「……まぁ、まず肯定しないよな。わかってたけど」

「本当だとしてもそうだろうね」

「じゃあ今は? 付き合ってないの? 誰とも」



たぶんここが分岐点だ。

わかっているのに、もうすぐ鳴るチャイムに、廊下に、そわそわしてる。






市野先生がこの廊下の前を通る。







見るとばっちり目が合って、前はドヤ顔をされたけど今は冷めた目で見られる。



ドヤ顔で返せばよかった?





「……糸島?」






いま、たぶん嫉妬された。

告白されても変わらなかった顔色が、嫉妬一つで熱くなる。

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