保健室の眠り姫は体育教師の受難を夢に見る
同級生の告白には微塵も心動かされないのに、悪い王様の冷たい視線には熱を上げて。
「……糸島?」
「え。あ……ごめん」
「どうした? 体調悪いのか?」
本当に心配そうに訊いてくれるから流石に申し訳なくなって、さっと立ち上がって見せる。
「平気。ありがとう」
でもちょっと保健室行ってくる、と言い残して、市野先生の後を追って、走る。
3時間目、隣のクラスで保健の授業が終わったら、先生は次の時間が空きだからそのクラスの生徒と他愛のない話をする。
そして4時間目が始まる前には教室を出て、私のクラスの前を通って、保健室へと向かう。
先生が通るだろう道順に走る。
階段をくだれば、チャイムが鳴って廊下から誰もいなくなる。
「待って」
走ると息が切れて声が出しづらい。
「市野先生‼︎」
呼んでもそのジャージの後ろ姿は答えてくれない。
だからって呼べるわけがない。
その名前を、私が呼べたらおかしいでしょう?
「っ、ひさっ……」