保健室の眠り姫は体育教師の受難を夢に見る
やっぱり香月先生の朗読はひどい。
4時間目の現国の時間、できるものなら耳栓をしていたかった。香月先生の声は鼻にかかりすぎている。聴いていると自分のほうが息苦しくなってしまう。
美人なのに勿体無いな。
スタイルがよくって、すっとした目鼻立ち。顔だけなら、あんな大人になりたいと思う。だけど声は大事。七難隠すのは色白じゃなくて声色です。
目よりも耳が。視覚より聴覚のほうが強烈にひっぱられる。
4時間目が終わるチャイム。
それに比べたら微々たる声だけど私の耳は確実に捉えた。
頬杖をついたまま何気無く、廊下のほうを見る。
見慣れた、カッターシャツにネクタイ、その上にジャージを羽織った姿が目の前を過ぎていく。
市野先生の声は、静かによく響く。
矛盾しているようだけど、私の中ではよく響く。
からかうなと笑う声。
すげーじゃんと褒める、
笑う、
挨拶をする。
まぁ特別な意味はないのですけど。
ぼーっと眺めていると市野先生は、体育準備室から食堂に移動するだけだというのに数人に囲まれていた。
人気者はよろしいですなぁ。
学年一の美少女も全力で盛って挑んでいる。
ふと目が合った。
「……なんでドヤ顔?」
なんで見てるのがバレたんだろう。
市野先生はよくわからない。
よくわからないことばかりだ。