保健室の眠り姫は体育教師の受難を夢に見る



私が何かを口走りかけたところで、市野先生は振り向いた。



「……なんて?」



他の生徒に笑うときとはまったく違う顔で、薄く目を開けて笑う。



「……久しぶりに走ったら、めまいが」

「あ、お前ずるっ」



もうちょっと振り返るの我慢すればよかったか、なんて言うから途端に悔しくて、その上ほんとにめまいまでしてきて。



「……糸島?」



察したようで先生は、薄ら笑いをやめて私の顔を覗きこむ。

ずるいなんてわざわざ言われなくてもわかってる。

高校に入ってからずっと、ずるばっかりしてきた。



「……先生、ごめん」



朦朧とする意識の中。



「保健室まで、運んでください」



自分でそうお願いすることは、敗北宣言に近い気がする。
ついに立っていられなくなってきて、先生の胸に手を置いた。



「……ん、わかった。もう目閉じてていいよ」



その言葉を最後に体がふわりと浮いて、私の世界は暗転した。


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